時計の中で機械式腕時計と言えばスイスブランド。スイスには、時計メーカーが数多く存在しています。その多くはクオーツショックを乗り越えてきた歴史あるブランドばかり。
機械式腕時計は概ね、クオーツ時計より価格が高く、高級なイメージがあります。しかし、その背景にはカラクリがあったのです。
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スイスに高級時計メーカーが多く存在している理由
時計の素人の管理人はかつて、なぜスイスに多くの時計メーカーが存在しているのか不思議に思っていました。
スイスの冬は雪に閉ざされ、精密機器の製造に適した環境ということもあり、家内工業として時計産業が生まれたのは周知の事実です。
しかし、スイスという小国にしては時計メーカーや工房がかなり多いのです。
クオーツ時計は別として、機械式腕時計のムーブメントは何百もの小さな歯車やテンプ、ぜんまい、ルビーを組み合わせた集合体。ムーブメントによっては小さな宇宙とも言われるほど精密な機械。
ムーブメントは精密機械である以上、生産台数が少なければ、それだけ製造コストが跳ね上がってしまいます。物の生産台数が少なければ、コスト高になるのは当然の理。
よって、スイスの機械式腕時計のムーブメントは製造コストが高い。
↓
製品売価が上がる。
↓
機械式腕時計は高価な高級品。
このような図式を頭の中で漠然と描いていました。
管理人はクオーツ派のため、機械式腕時計に興味を抱いたことはありませんでした。その後、腕利き時計職人が経営する店で、電池交換やタグ・ホイヤーのオーバーホールを依頼するようになってから、機械式腕時計の背景を知るようになったのです。
ROLEX/ロレックスはガラス以外のパーツは、すべて自社なり協力工房で生産していると聞いています。他にも、自社ムーブメントに拘り続けている有名時計メーカーもあります。
しかし、その他の少なくない時計メーカーはETAムーブメントを使用するか、それに一部手を加えて使用してきた話を職人から聞いて、正に青天の霹靂でした。今までの謎が溶けた瞬間でした。
ETAムーブメントがスイスの時計メーカーを支えてきた
工業製品は作れば作るほど品質が安定します。それと同時に製造コストも下がっていきます。
つまり、ETAムーブメントは信頼性と精度が高く、調達コストが安いムーブメント。時計メーカーがETAムーブメントを入手し、ケース、裏蓋、ガラス、ベゼル、リューズ、文字盤、針、バンド等を用意すれば、それで機械式腕時計が完成します。
スイスに多くの時計メーカーが存在している理由の1つは、まさにこのような背景があるからです。
時計職人がA社とB社の機械式腕時計をオーバーホールする際、ムーブメントはほとんど同じというケースがあるそうです。更に、有名ブランド時計であっても、自社では製造していないケースも珍しくはありません。
各時計メーカーがどの程度のコストでETAムーブメントを調達していたかは知る由もありません。これは想像の域を超えませんが、時計メーカーのETAムーブメントの調達コストは非常に安かったと推測します。
ETAムーブメント2020年問題
かねてより、ETAムーブメントの使用はスイスの時計業界が抱えている問題でした。
各時計メーカーはムーブメント以外を自社で作り、ETAムーブメントを仕入れたら機械式腕時計の完成なのです。これは時計本体にムーブメントをポン付けしていることから、ETAポン(エタポン)と呼ばれてきました。
スウォッチグループのETA社は、あらゆる時計メーカーにムーブメントを供給してきました。時計ブランドの中には、エタポンに高額なブランド料を乗せて機械式腕時計を販売してきました。ETA社としては、長年この状態が続いてきたことが面白くなかったわけです。
機械式腕時計のムーブメントはあたかも自動車のエンジンとトランスミッションのようなもの。
各時計メーカーがボディとインテリア、サスペンション関係を作り、ETA社からエンジンを仕入れて組み込んだら「ハイ、一丁上がり!」なのです。
「ハイ!ETAエンジン&トランスミッションを載せて100万円、これは200万円!」
なんてビジネスをしていたら、ETA社は面白くありません。
100~200万円レベルの自動車を10倍の価格で販売していたら、売る方も売る方なら、買う方も買う方なのです。
ETA社は、これでは健全な機械式腕時計の発展に繋がらないと考え続けきたのでしょう。
2020年、スイスの各時計メーカーのムーブメントとして使われてきたETAムーブメントの供給が停止されます。これにより、スイスの各時計メーカーは時計生産ができなくなる事態に陥る事になります。
その問題の救世主として、ETA社の下請けであるセリタ社のムーブメントを採用する時計メーカーが増えました。
今後、各時計メーカーはセリタ社のムーブメントで乗り切っていくのかマニュファクチュール(自社開発のムーブメント)に舵を取るのが興味深いところです。
機械式時計メーカーはアパレルと同じマーケティング手法
機械式腕時計のブランドは数多く、各メーカーはそれぞれ歴史を持っています。ブランドが時計価格を決めていることは勿論あります。アパレルの世界でもブランドによって、価格帯の棲み分けがなされています。
機械式腕時計は工業製品ではあるものの、機械を全面に出すような売り方はしていません。
時計は実用品+アクセサリーとしてのファッション性も兼ね備えた製品で、どちらかと言えばアパレル的なマーケティング手法を採ってきています。事実、高級時計のマーケティングは正にアパレルと同じ。
もし、部屋の中にマガジンがあれば、カラー広告を探してみると興味深いと思います。
Men’sマガジンや女性の人気ファッションマガジンであれば、高級時計の美しい広告が見つかると思います。カラー広告の下に店舗情報、そして会社情報は小さな文字で下段に印刷されているパターンが多いのです。
ブランド品は製造原価を想像させない
高級ブランド品は付加価値が高く、利益率も高い傾向があります。いつの時代も銀座の中央通りやデパートの1階、ショッピングモールの1階はアパレル店舗が一番多いのがその証拠。
これは以前から変わりません。それだけ高い家賃を払っても、ビジネスが成り立つ証拠。
冷静に考えれば、ルイ・ヴィトンのバッグの一部は合皮を使用しています。それは、上質な本革ではありません。製造原価を考えれば、合皮の方が断然安いに決まっています。
ETAが組み込まれている機械式腕時計が50~60万円で販売されていても珍しくありません。ETAムーブメントを内蔵した時計の製造原価は、売価に対してかなり安いのではと思ってしまいます。
しかし、それでもその時計に価値を認めるお客さんは数多いのです。お客さんは、その商品のデザインやイメージ、身に着けた時の雰囲気や世界、満足感に対してお金を払っていることになります。
ブランド愛用者は製品の製造原価がうんぬんといった概念はほとんど無いと思います。
このことからも、お客さんは理屈だけで物を買っている訳ではないし、むしろ感情に左右されて物を買うことが多いと思います。人がお金を使う時の心理は微妙で奥深いものがあります。
欧州のブランド戦略の巧みさ
このようなブランド戦略において、欧州の時計やアパレル企業群が断トツです。一流品を作って時間をかけてブランドを育て、売価を高く設定するのがブランドビジネス。
生真面目な人の中には、高級ブランド品に対して「法外な価格設定じゃない!?」なんて文句の一つもつけたくなる人がいるかもしれません。
しかし、高級ブランド品は長い歴史の中で、多くの愛用者から強く支持されてきているのは事実。そのブランドには人の心を掴んで離さない、言葉では表現できない魅力があるのでしょう。
ブランドは人の微妙な心のひだに訴えかける物であって、人の感性を潤す世界ですね。
時計の修理、オーバーホール
機械式腕時計ならば、4年前後に1回のオーバーホールが必要とされます。これは、時計内部の油が経年劣化してくるため。オーバーホールの料金は店によって様々ですし、技術力にも差があります。
ロレックス、オメガを中心にチュードル[Tudor]、カルティエ[Cartier]、ブルガリ[Bulgari]、ブライトリング[Breitling]、タグ・ホイヤー[Tag Heuer]、IWC[IWC]、ゼニス[ZENITH]、ロンジン[Longines]、グッチ[Gucci]、パネライ[Panerai]、グランドセイコー[Grand Seiko]、クレドール[CREDOR SEIKO]などの高級時計のオーバーホール・時計修理を行っている時計業者なら安心感が違います。
この東京、池袋の時計店は実績が豊富で見積無料。
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デイトナ(ロレックス)、デイデイト(ロレックス)、コーアクシャル(オメガ)の修理は難しい場合があります。詳細については千年堂へお問い合わせください。
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